土蜘蛛の巣

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zoom RSS きっかけ………あるいは原因

<<   作成日時 : 2010/05/19 22:00   >>

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 夕飯の時間。………といっても私は意味が無いので食事は摂らないし、蜘蛛童も同じく。なので姉様が一人で夕飯を食べる時間だ。まあ、買って持って行くのは私だし、後片付けをするのも私なのでいちいち離れるのも無駄。だから私はその場で見ている。つまり平賀家の夕飯風景は一人が食べているのを二人で見ているのが普通、となる。

 姉様の部屋に行くと、その日は蜘蛛童の姿が無かった。珍しいことだけれど、全く部屋から出ないわけでもないので気にしない。買ってきたものを渡し、食べ終わるのを待っていると、姉様が話しかけてきた。
「おかしいと思わないかい、双葉」
 唐突にかけられた言葉の意味が分からなくて、私は姉様の方を見る。こちらを見ている姉様の顔に浮かぶ表情は私が一番見慣れた表情。………何となく馬鹿にされたような気分になる笑み。でも怒ったところで喜ばせるだけだ。私は素直に聞き返す。
「………何がかしら?」
「蜘蛛童のことだよ」
 説明されても分からない。
「あの子がどうしたの?」
 違う。
「気が弱すぎると思わないかね」
 きっと考えたくなかっただけ。
「害意の全く無い子犬に怯えるのだよ?」
 だって、こんな簡単な問い掛けで分かってしまうことなのだもの。

 そう、あの子は『ヒトを襲っていた』のだ。
追い詰められて仕方なく?………違う。
では何故襲っていた?………簡単なことだ。蜘蛛童が成長する為には、ヒトを喰らう必要があるから。それは本能。
では何故本能的にヒトを襲う人喰いの化け物が、害意のない子犬にすら怯える?
………それは。

「どうしたね。息をするのも忘れて、何を考えているんだい?」
 姉様の声で我に返る。表情は相変わらず笑み。何も言わずに私は立ち上がり
「有り難う、姉様」
 今度は何も言わない方が喜ばせる気がしたから、お礼を言った。
 繕え、無様でも。………私は、大丈夫だと。

 蜘蛛童は庭にいた。そもそも臆病なあの子が、姉様からそんなに離れるわけがない。私を見て身を竦ませる蜘蛛童。近づいて行くと、蜘蛛童がどんどん緊張していくのが分かる。一歩ごとに怯えの色を深め、やがて手が届く距離まで近づくと、もはや震える事も出来ない程になった。手を触れる。撫でる。………そして抱きしめた。
 誰かが私を優しいと言う。何故そんな風に言われるのか分からないけれど。もし私が優しく見える時があると言うのならば、今この子にそう見えますように。
「ごめんなさい。私があなたを否定したから、なのよね。私があなたを止めたから。私が、あなたを、殺しかけたから………」
 私、つまり同族に成長を止められて、どうしていいか分からなくなったのだろう。そのくせ滅ぼしもせずに側に置かれて、自分が何をすればいいか、自分がどうなるのか分からなくなってしまったのだろう。
「大丈夫だから。もう、あなたが育つのを遮るものはないの。もう、あなたの思うままにすれば良いの」
 震えているのは蜘蛛童だろうか?それとも、私の腕だろうか?
「分かるはずよ、あなたになら。感じるでしょう、あなたの主の心を」
 私を恐れても構わない。子犬に怯えるのも問題は無い。例えこの世の全てを拒否しても、きっとあのヒトはそれを笑って見ているだろう。
「だから一つだけ。………自分の心のままにありなさい」
 いつの間にか震えはなくなり、私はそっと蜘蛛童を離した。立ち上がり、庭を後にする。
振り返らないのは私の勝手。これ以上は、きっと選ぶ道を歪めてしまうから。そんな責任は背負いたくないから。こんなに干渉しておいて何を今更。きっとこれはとても無様な拘りなんだろう。
「でも勝手にさせてもらうわ。私も姉様の妹だものね」
 なんだかちょっとおかしくなって、私は笑いそうになった。



「あら?」
「どうしたんだね、稲田」
「いえ、この子……そう、何だか雰囲気が変わりましたね」
「へぇ、分かるのか」
「何となく感じるだけですけど。……一体何が?」
「さて、わしも知らないよ。聞いてみたいくらいだね」
「ふむ……それで、どちらに聞きたいんですか?]
「決まっているだろう。妹にさ」



 そして………目覚めの時は来る

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