土蜘蛛の巣

アクセスカウンタ

zoom RSS 古い過去の話。

<<   作成日時 : 2010/05/28 22:23   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

 やぁ、いらっしゃい。………どうしたんだい?
誰もいないのかって?そうだね、まだ早いから。
やることも話題もない。まあ、それも良いじゃないか。
………何だい?じっとこちらを見て。照れてしまうよ。
わしなど見るより夕日でも見ている方が楽しいよ、きっと。
ああ、夕日を見ると思い出すねえ………。
うん?ちょっとした昔話だよ。
ふむ、聞きたいのか。じゃあしてあげよう。
あまり面白くないと思うがね。


 夕焼け時の山奥を娘が一人歩いていく。
ふらり、ふらりとあても無く。散歩と呼ぶにはあまりに意味がない歩み。
白い肌に黒く長い髪。女性らしい丸みを帯びたか弱そうな姿。
だが娘は薄暗い道に怯えることも無い。
娘は怯える側ではなく、恐れを与える側なのだ。
気配を察知した動物達は進路から退き、歩む道には意志の気配は無い。
娘はそんな道が好きだった。

 やがて娘は森を抜けて崖に出た。
そこは夕日の見られるお気に入りの場所である。
いつものように進み出ようとし、先客に気付いた。
先客はその場所に胡坐をかき目を閉じている。
引き締まった身体つきは戦うために鍛えられた者のそれだ。
「………君は誰だい?」
 面白がっているような響きを含みながらも冷たい声。
興味しかなく、それすらすぐに捨て去りそうな質問。
「俺は退治屋だ。………この辺りに人に害をなすバケモノが出ると聞いてね」
 対して返るは穏やかな声。先客………男は続ける。
「娘さん、ここは危険だから早く去った方がいいよ」
 娘はわざとらしくため息をつき、答えた。
「やれやれ、危険な場所を娘一人で帰らせる気なのかい?
 危険なら危険でなくなるまで側に置いて欲しいな」
 男は暫く黙り笑顔で言う。
「確かにその通りだ。じゃあ少し話相手になってもらおうかな」
「話相手か、まあ面白い話をしてくれるなら聞く側になっても良いか」
「何故そんな上から目線なのだ?」
「だってそこはわしの指定席だからね。貸し出すからには見返りが欲しいよ?」
「成る程。それでは仕方ないか」
 二人は笑う。

 そうして娘が男の下に通うようになって、数日。
「ヒトを襲う恐ろしいバケモノは中々現われないようだね」
「ああ、困ったことだ」
 面白がる娘の言葉に男は苦々しげに答える。
「不本意そうだね。退治できないと困るのかい?」
「ああ、割とね。………しかし」
「しかし?」
「そのバケモノは本当に退治すべき凶悪なものなのだろうか」
 真剣な声。
「さて、どうかな?そのバケモノはヒトにどう思われているか興味はないと思うよ」
 返るのは沈黙。だから真剣に返す。
「そのバケモノは………凶悪ではないが、邪悪だよ?」
 男は立ち上がる。

 そして………娘がそこに通うことは、もうない。



 どうだ、特に面白い話でもないだろう。
うん?男と娘はどうなったのかって?
男はバケモノを退治しに来た人間で、娘は邪悪なバケモノだった。
そして娘はまだ生きている。
悲しい思い出なのだから触れないでくれたまえ。
………冗談だよ。そんな申し訳なさそうな顔をするな。
素直なのは良いことだが、あまり素直過ぎると困ってしまうよ。
どうなったかは秘密の方が良い気がするから秘密さ。
だが………。今もあそこに行くとあの男が居るような、そんな気はするかな。

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
古い過去の話。 土蜘蛛の巣/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる