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<<   作成日時 : 2011/02/23 22:40  

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 2010年12月18日。世間一般では特に何がある日というわけではない。
しかし、鎌倉にある巨大学園、銀誓館学園の生徒たちの間には張り詰めた雰囲気が漂っていた。
妖狐の拠点となった敦賀市に攻め込み、奪い返す……『敦賀市攻略戦』を次の日に控えているからだ。これは、そんな夜の話。

 浅野家。突然鳴ったチャイムに浅野・クリューナ夢衣は洗い物をする手を止めた。
(「何だろう、回覧板かな?」)
 使い慣れたエプロンで手を拭きつつ返事をする。そして食堂出口にあるスピーカーへ。スイッチを押すと外のインターフォンを通して会話できる仕組み……説明するのも馬鹿馬鹿しい、何処の家にでもだいたいある機能である。クリュは能力者であるため、一般人から物理的危害を加えられる可能性はないに等しいがやはり年頃の少女だ、夜の来客相手に注意をするのは普通のことだろう。性格を鑑みるに、そんな危険性を考慮したというよりはただの癖のようなものかもしれないが。
「はい、浅野です」
 ちょっと話の長い隣のおばさんの顔を思い出していたクリュに届いた返事は意外なものだった。決して大きな声ではないが、力強い、それでいて遠慮がちな
「………平賀、です」
 友人、平賀・双葉の声である。

 ここで良いからと言う双葉を家に招き入れるのに五分、寒いからと説得してお茶を飲ませるまで五分。無駄なのか何なのかよくわからない時間が過ぎた。微妙に居心地が悪そうな双葉を見て思う。
(「もっと家に呼んでみようかな」)
 彼女が自分から訪ねてくることはほとんどないが、呼べば来るだろう。そして多分喜んでくれる……と、思う。何かと一歩引く性質のこの友達が、自分に我がままを言う日が来るだろうか。
「明日のことなんだけれど。………クリュは1人?」
 考えに没頭しかけたクリュの意識を引き戻す双葉の言葉。明日、つまり敦賀市攻略戦において1人で行動するのかという質問だ。友人との日常から戦争へ、思考を切り替える。
「うん、1人だけど?」
意図が判らないので続きを促す。見ると双葉は顔を合わせるのが辛いのかやや伏せ気味にしていた。しかし『人と話すときは相手の目を見ること』を馬鹿正直に守るためだろうか、自分を見ている。簡単に言うと上目遣いというやつになる。……そう呼ぶにはあまりにも真剣でぶっちゃけちょっと怖いけれど。そんな必死の形相で双葉が言った言葉は
「それなら………その、満葉と一緒にいてくれないかしら」
 ……ああ。ストン、と何かが落ちるような感覚とともに合点が行く。双葉らしい、不器用で微笑ましいお願い。クリュは自分を姉と慕う年下の友人たちを思い浮かべた。彼女たちがこんなことを言ってきたなら、抱き締めて撫でてあげるのに。
「勿論いいよ、任せて。断る必要も意味も思いつかないよ」
 行動に移せない分、自分の気持ちを笑顔に変えて返事をする。それと同時に断るたった一つの理由と、それを告げるための言葉が思いついた。
(「そんなに大切なら、自分が一緒にいてあげたらどうかな?」)
 多分、断るならこう。でも……まだ、そう言うべきときじゃない。いつか双葉が自分でそう思って、それでも踏み出せない時が来たら……。
「ん、有り難う」
 いつもの無表情に戻って御礼を言う双葉を見ながら、クリュはそんなことを思うのだった。



 その数分後、一度は帰った双葉が再びやって来て「………私から頼まれたことは言わないでね」と言ったときに撫でなかったことは、きっと褒められてもいいと思う。

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